加群の定義と例
こんにちは。Math。です。
普段,数学をやっていても加群って全く使わない(あるいは意識していない)ので,いざ出てくると定義とかすっかり忘れてしまっています。
ということで,今回は加群についてです。
加群
を(単位的)環, を可換群とします。また, を単位元とします。
右 -加群というものもありますが,特に断らない限り,以下では左 -加群のことを単に -加群と書きます。
-加群の定義は, を決めるたびに写像 が定まると考えることもできます。すなわち, が -加群であるということを「環準同型写像 が定まること」と定義できます。
では,条件 i〜iii による定義を定義 1,環準同型写像による定義を定義 2 とするとき,これらの同値性を証明してみます。
定義 1 を採用したとき,各 に対して
で写像 を定めます。
このとき,条件 i より は準同型写像です。また,条件 iii より ( の単位元)です。
さらに,条件 ii によって,任意の , に対して,
および
なので, は環準同型写像です。よって,環準同型写像が定まりました。
一方,定義 2 を採用したとき,環準同型写像 に対して,
で写像 を定めます。
このとき, が準同型であることから条件 i が成り立ちます。また, が環準同型であることから条件 ii,iii が成り立ちます。
したがって,定義 1 を採用すれば定義 2 の条件が,定義 2 を採用すれば定義 1 の条件がそれぞれ得られるので,この 2 つの定義は同値です。■
これより,どちらの定義を採用しても問題ないことが保証されました。なお,ここでは定義 1 のほうを採用します。
加群の例
環 はそれ自身で -加群です。当然と言えば当然で,環は加法について可換群ですし,結合則や分配法則も成り立つので,条件 i~iii を全て満たします。ほかにも,環 の任意のイデアルは -加群です。
もう少し具体的な例を挙げると,実数(複素数)係数の 次正方行列からなる環 に対して, 次元実(複素)ベクトル空間 は -加群です。
実際,単位行列 と任意の行列 ,ベクトル に対して,
- ,
が成り立ちます。
零因子の存在
環 の元 に対して, となる非零元 が存在するとき, を零因子といいます。
特に,環によっては非零元同士の積が 0 になることもあります。それと似たようなことが,-加群 でも起こり得ます。
すなわち,ある ()と ()に対して, ということが起こり得ます1。
例えば,実数係数の 2 次正方行列からなる環 と,2 次元実ベクトル空間 について,非零な元として
をとってくれば が成り立ちます。
したがって,一般に だからと言って「 または 」と言うことはできません。
おわりに
「 かつ のときに が成り立つかどうか」という疑問から今回,加群を復習しようと思い立った次第です。
結論から言うと,前節の最後に書いたように, かつ だとしても とは限りません。
そりゃそうかって感じもするんですが,久々に加群を復習できたので結果としては良かったです。