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Laurent 多項式環の単元

こんにちは。Math。です。

勉強していて Laurent 多項式環の単元が出てきたので,それについて書いていきます。

Laurent 多項式環

 t不定元とします。

Laurent 多項式

次のように,負冪も許した  t の整数係数多項式  p(t)Laurent 多項式といいます。


        p(t) = c_{-r}t^{-r} + \cdots + c_{-1}t^{-1} + c_0 + c_1 t + \cdots + c_s t^s

ここで, c _ i\in\mathbb{Z} r,s\ge 0 です。

明らかなように,Laurent 多項式同士の和や積も Laurent 多項式です。したがって,次のことが言えます。

Laurent 多項式環

Laurent 多項式からなる環を Laurent 多項式環といい,ここでは  \Lambda で表します1

Laurent 多項式環の性質

言うまでもなく, \Lambda における零元,単位元はそれぞれ 0 と 1 です。また,普通の多項式環2とは違い,次が成り立ちます。

Laurent 多項式環の単元

 \Lambda の単元(逆元をもつ元)は  \pm t ^ i i\in\mathbb{Z})です。

証明

 \pm t ^ i たちが  \Lambda の単元であることはすぐに確かめられます。よって, \Lambda の単元がこれらしかないことを示していきます。

 p(t) \in \Lambda を単元とします。

ここで, p(t) の最小次数を  -r とし, q(t)\in\Lambda p(t) の逆元とするとき,

 \displaystyle
        1 = p(t)q(t) = t^r p(t) \cdot t^{-r}q(t)

とできます。つまり, t ^ rp(t) は単元です。しかも,その最小次数は 0 以上なので,これを改めて  p(t) と書けば, p(t) は負冪を持たない単元ということになります。

よって,単元  p(t) は負冪を持たないと仮定しても一般性を失いません。このとき, p(t) の最高次数を  n\ge 0 とし,


        p(t) = c_0 + c_1 t + \cdots + c_n t^n, \quad c_n \ne 0

とします。また, p(t) の逆元  q(t)\in\Lambda


        q(t) = d_{-r} t^{-r} + \cdots + d_{-n}t^{-n} + \cdots + d_{-1}t^{-1} + d_0 + d_1 t + \cdots d_s t^s

とします。ただし, -r\lt -n s\gt 0 です。

 p(t)q(t)=1 において係数比較をすれば, -r\le k\le n+s に対して

 \displaystyle
        \sum_{i+j=k} c_i d_j = \begin{cases}
        1 & k=0\\
        0 & k \ne 0
    \end{cases}

が成り立ちます。

 n=0 のときは直ちに  p(t)=\pm 1 が得られますので,以下では  n\gt 0 とします。

まず, k=n+s のほうから調べていきます。

 c _ nd _ s=0 および  c _ n\ne 0 より  d _ s=0 です。さらに,


        c_{n-1}d_s + c_n d_{s-1} = 0, \quad d_s=0, \quad c_n \ne 0

より  d _ {s-1}=0 です。以下同様にして,


        d_s = d_{s-1} = \cdots = d_{-n+1} = 0

が成り立ちます。

次に, k=-r のほうから調べていきます。

そこで, d _ {-r}\ne 0 と仮定すると, c _ 0d _ {-r}=0 より  c _ 0=0 です。さらに,


        c_0 d_{-r+1} + c_1 d_{-r} = 0, \quad c_0=0, \quad d_{-r} \ne 0

より  c _ 1=0 です。以下同様にして,


        c_0 = c_1 = \cdots = c_{n-1} = 0

が成り立ちます。このとき,


        0 = c_0 d_{-r+n} + c_1 d_{-r+n-1} + \cdots + c_n d_{-r} = c_n d_{-r}

ですが, c _ n\ne 0 なので矛盾します。つまり,背理法により  d _ {-r}=0 でなければなりません。

同じように, d _ {-r+1}\ne 0 と仮定すれば矛盾が導かれるので,やはり  d _ {-r+1}=0 です。これを繰り返すことで,


        d_{-r} = d_{-r+1} = \cdots = d_{-n-1} = 0

が成り立ちます。すなわち, q(t)=d _ {-n}t ^ {-n} と書けます。

このとき, c _ nd _ {-n}=1 より  d _ {-n}\ne 0 に注意すれば,


        c_0 = c_1 = \cdots = c_{n-1} = 0

であることが分かります。特に, c _ nd _ {-n}=1 ですから, c _ n=d _ {-n}=\pm 1 です。

したがって, p(t)=\pm t ^ n です。■

おわりに

恐らく正しいはずです。

簡単に証明できるものかと思っていたら,想像以上に大変でした。因数定理などを利用すればエレガントに証明できるんじゃないかとも思いましたが,あいにく思いつきませんでした…

ひとまず,Laurent 多項式環の単元は  \pm t ^ i の形をしていると分かったので満足です。

それでは。


  1.  \mathbb{Z}[t,t ^ {-1}] と表すこともできます。結び目理論では  \Lambda を用いることが多いようです。
  2. 負冪のない多項式環ということです。例えば, \mathbb{Z}[t] の単元は  \pm 1 のみです。