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交換子部分群の交換子部分群

こんにちは。Math。です。

とある数学の問題を考えている過程で,次のような問題にぶつかりました。

問題

 G の交換子部分群の交換子部分群は, G正規部分群かどうか。

つい先日,これが正しいことを証明できたので,今回はその備忘録です。

交換子と交換子部分群

 G の任意の 2 つの元  x,y に対して,


[x,y] := xyx^{-1}y^{-1}

で定まる演算  [\cdot,\cdot]:G\times G\to G交換子といい, [x,y] のことも交換子といいます。

交換子の性質は色々なところで紹介されていますので,細かい話はそちらに譲るとして,ここでは次の性質を用います。

補題

任意の  x,y,z\in G に対して次が成り立ちます。


z^{-1}[x,y]z = [z^{-1}xz,\ z^{-1}yz]
証明
 \begin{aligned}
z^{-1}[x,y]z &= z^{-1}xyx^{-1}y^{-1}z\\
&= z^{-1}xzz^{-1}yzz^{-1}x^{-1}zz^{-1}y^{-1}z\\
&= (z^{-1}xz)(z^{-1}yz)(z^{-1}xz)^{-1}(z^{-1}yz)^{-1}\\
&= [z^{-1}xz,\ z^{-1}yz]\ \text{■}
\end{aligned}

 G の交換子全体で生成される群を交換子部分群といい, [G,G] D(G) と表します。先ほどの補題から,直ちに次のことが分かります。

命題

 [G,G] G正規部分群です。

ここで,以下では特に断らない限り, x ^ z:=z ^ {-1}xz C:=[G,G] とします。

証明

任意の  c\in C G のある元  x _ 1,y _ 1,\ldots,x _ n,y _ n を用いて


c = [x_1,y_1] \cdots [x_n,y_n]

と書けます。このとき,任意の  z\in G に対して,補題より

 \begin{aligned}
c^z &= z^{-1}[x_1,y_1] \cdots [x_n,y_n]z\\
&= z^{-1}[x_1,y_1]zz^{-1} \cdots zz^{-1}[x_n,y_n]z\\
&= [x_1,y_1]^z \cdots [x_n,y_n]^z\\
&= [x_1^z,y_1^z] \cdots [x_n^z,y_n^z]
\end{aligned}

ですから, c ^ z G の交換子で生成されています。よって, c ^ z\in C なので  C G正規部分群です。■

交換子部分群の交換子部分群

以上の補題や命題を用いて冒頭に提示した問題——  [C,C] G正規部分群かどうか——が正しいことを証明してみます。

証明

示すことは, \bar{c}\in[C,C] z\in G に対して  \bar{c} ^ z\in[C,C] が成り立つことです。

交換子部分群の定義より, C のある元  c _ 1,d _ 1,\ldots,c _ n,d _ n を用いて


\bar{c} = [c_1,d_1] \cdots [c_n,d_n]

と書けます。このとき,命題の証明のときと同様にして,


\bar{c}^z = [c_1^z,d_1^z] \cdots [c_n^z,d_n^z]

が得られます。 C G正規部分群でしたから,各  c _ i ^ z,d _ i ^ z C の元です。

つまり, \bar{c} ^ z C の交換子で生成されていますので  \bar{c} ^ z\in[C,C] です。■

おわりに

恥ずかしい話,この証明を思い付くまでに 1 週間以上も時間を費やしてしまいました…

私の知識不足なのか検索力が低いのかは分かりませんが,交換子部分群の交換子部分群についての記述は見つけても,それが元々の群の正規部分群であるかどうか書いてある記事はなく,いくつか専門書を見ても記載されていませんでした。

また,正規部分群の正規部分群は必ずしも元々の群の正規部分群ではないという事実を知り,一時は「反例がある」と考えていました。

思い付くまでに時間がかかった原因は,交換子部分群の元を生成元(交換子)で表そうとしていなかったせいでした。生成元を用いずに証明できないかとずーっと考えていて,式変形したりと試行錯誤はしていたのですが,いずれも失敗に終わりました。そこで初心に戻って,生成元で表して考えてみたところ今回の証明を思い付いたって感じです。

証明してしまえば「当たり前」とも思える結果なんですけれど,少しでも怪しいと思うものはきちんと自分の手で証明するのが大切ですね。